2002年4月21日 朝日新聞の全面広告
10.コラム |
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これは、リフォームで急成長した会社の社長が、倒産したハウスメーカーの新築住宅部門を買いとり、新会社のスタートを宣言した全国紙の一面広告の中で見つけた。“本物を建てるのは私たち”の大見出しで、デッカイ写真には群馬県雲光山弥勒寺山門の前に立ち、背広の上にハッピをまとう社長さんが写っていた。読んでいる方が恥ずかしくなった。 |
(この辺りのことを詳しく知りたい方は、拙著講演録「木造住宅の耐久性」P45〜P50、誤った構法認識を読んでいただきたい。入手は当社へ問い合せて下さい。0422-48-0111 住吉建設)![]()
7〜8年前の話である。見知らぬご婦人から電話をいただいた。自宅の改築を考えているが、おたくの評判を耳にしたので話を聞きたいとおっしゃる。私はいそいそと狛江まで出かけていった。
この婦人はよく勉強していて住宅本をよく読んでいたし、セミナーなどにも度々出向いているらしい。話が通し柱のことになり、「おたくは何寸の通し柱ですの?」と聞いてきたので、私は何のためらいもなく、「いや、うちでは通し柱は使っていません」と応えると、「えっ!?」と大きく発し、目をむいて私の顔を見た。慌てた私は、これこれしかじかと簡単な説明をしたが、彼女の心は閉じてしまったようだった。通し柱を使わないなんて、とんでもない工務店だと思ったのだろう。
阪神大震災以前は、当社もそういうもんだと思って通し柱を使っていた。しかし、地震の被害や倒壊原因の数々が詳らかになるにつけ、やめたのだった。この一件にこりて、通し柱を復活させたりはしていない。しない代りに説明のタイミングや説明の仕方に慎重になった。世間では、このご婦人のように、木造住宅には通し柱は必須のものであり、その太さは建物の構造の安全・強度にかかわる重要な部材なのだと思っている人が非常に多いことを知っている。が、本当に通し柱は安全なのだろうか?
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2階建ての住宅は、力学的には図1のように串刺ダンゴにモデル化される。ダンゴは重さの中心をあらわす。1のダンゴは、2階の床とその上に乗っている積載物(人間も含めて)の荷重、及び外壁の重さなどが集約されている。2のダンゴは屋根、小屋裏の荷物及び外壁の重さなどが集約されている。地震や台風などの水平力は、重さの中心に作用すると考えるからである。水平力QE1,QE2が作用すると図2のように変形する。2階と1階に作用する力は当然違うし、 |
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また変形のしにくさも階によって異なるから、傾斜角度は、θ1とθ2は同じにはならない。さて通し柱の話になるが、θ2がθ1と全く同じなら、柱は傾斜はするものの真っすぐのままである。しかし図のようになるのが一般的だから、柱には2階の床のところで折点ができる。くの字(ここでは逆くの字)になるのである。図3のように斜めにたっている柱の根元と中間を押さえつけておいて、頭の部分に反対方向からQE2'という力を作用させたようなもので、もっと分り易い形にすると図4のような単純梁の中央に力が作用して、QE2'という支点反力が生じた状態と同じである。
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実際の設計例で柱の中間にどれだけの力が加わるか概算してみよう。図5は4年前に当社でつくったもので延床約30坪の総2階建住宅である。四角の平面形の四隅の柱を丸印で囲ったが、ほとんどの設計者がこれを通し柱と指定し、また、役所の審査係も、通し柱と書いてあると安心する。書いてないと根拠を示せと言ってくる。 |
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図6のK1、K2というのは各階の変形のしにくさを表わす。一般に建物の水平剛性と呼ばれ、構造計画で決る。地震力を受けたとして2階床は柱の根元を基準にして1.3p移動し、小屋面はさらに1.1cm移動する。もし小屋面も1.3p移動してくれれば、点線のようになるから、柱にくの字の折点はできないが、そうなるように設計で仕組むのは不可能で、0.2p分は反対方向からの力の作用で押しもどされた感じで、差引き1.1cmとなっているとみなしてよい。その力は0.2×2.7 (K2)で0.54tである。建物の四隅に通し柱が使われていれば、1本あたりでは135sの力が作用していることになる。図7。なんだそんなものかと思うなかれ。通し柱は全長5.6mあって、その中間に270kgの力が作用したのと同じことだから、中央に生じた曲げモーメントM=135×280=37800s・pに対して、この部分がもつかどうかは断面いかんにかかっている。 |
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図8のようにたかだか4寸(12p角)柱で2方向ほぞ穴を貫通させ、断面欠損すると複合応力は許容応力度を超える。右の計算参照。 ほぞを全くやめて、金物だけで梁と緊結させてもそう余裕のあることではない。天然材のこと故、強度にバラツキはつきもので、欠点があれば折れてしまう。 この設計例では、各階の変形のしにくさを表わすK1、K2は高い方であるが、例えば1階が店舗やガレージで、耐力壁が不足気味になると、あるいは2階が開放的で抵抗する壁が少ないと、作用する地震力が同じでも変形は大きくなり、くの字はもっと厳しくなる。通し柱は確実に折れるだろう。柱の破壊は建物にとって致命的だ。ここまで頼りないものに何故いつまでもこだわるのだろう。大工達か?否、うちの大工は誰もこだわらない。通し柱でなければならない理由は施工上もない。古代の木造建築にも通し柱はない。どこのどなたがいつ頃から取り入れたのかは分らないが、構造の安全性が成り立つには耐力壁線上の主要な柱をみんな通しとするならいいだろう。しかし建物四隅や入隅の柱だけを通しとし、その太さを云々するのは、おかしなことなのである。ついでにいっておくと、建築確認申請図書の仕様書きのところで、私は次のように書いて審査を通している。
隅柱の扱い−1階と2階の層間変形角の違いにより発生する胴差部のくの字変形は、柱材の折損を招くから、通し柱としない。
これは通し柱と同じくらいよく知られた部材名だ。エンドユーザーでもほとんどの人が、ああ、あの斜め材ねと思い当るし、地震や台風の時にはつっかえ棒みたいに踏んばって家が倒れないように守ってくれるものだと、それぐらいのことは知っている。だから、筋違いがたくさんあると安心し、ないか、もしくは本数が少ないとわが家は大丈夫?と心配になる。この認識は間違っていない。では、プロはどうか。実は、プロの筋違いに対する認識も、素人と五十歩百歩のところだ。なにしろ、建築基準法施工令、住宅金融公庫仕様書、建築士の受験参考書の類いまで、ご丁寧な仕様規定が細々と書かれている。筋違いの強度は、厚さ1.5p幅9pの材を使うと倍率1.0、厚さ3p幅9pの材を使うと倍率1.5、厚さ4.5p幅9pの材を使うと倍率2.0・・・・・とこんな具合の天下り規定を頼って、建築のプロは荷重を拾うことも荷重で構造の設計をすることもしなくなった。クライアントの前で、平気で壁倍率がいくらで壁量がいくらだからとやっているが、一般の人にとっては、カベバイリツ、カベリョウなる言葉は、なにかの符帳が飛び交っているようにしか聞えない。建築はまず力学の世界なのだが、木造設計はどうも別の世界のようだ。仕様規定の押着せに慣れっこになったプロたちは、筋違いの座屈なんて、気がつくわけないか。
うちでは、厚さ4.5p幅10.5pの材を筋違いとして使っている。幅が9pから10.5pになっても仕様規定上は、倍率は2.0である。但し、圧縮力を受ける場合は2.5、引張力を受ける場合は1.5で、抵抗性能は異なる。同一耐力壁線上に設ける筋違いは偶数とし、圧縮と引張でペアとするのが原則だから、平均して2.0と定めている。座屈という現象は圧縮時に起こるから、倍率2.5の力が作用したときを考えなければならない。1倍率は200s/mだから、図1の場合は455sの力が作用し、筋違い材には1360sの圧縮力
が生じるが、これでも大丈夫というのが仕様規定のいわんとするところと解釈できる。果たしてそうか。座屈荷重を求めてみよう。材の細長比が100を超える場合は、オイラーの座屈理論値と実験値はよく一致するといわれている。この場合はそうだ。
オイラーの座屈式は
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で知られる。
筋違い材の材種と断面形状と材の長さで決まってしまうのである。
ここでは材を米ツガ、断面を4.5×10.5pとすれば、
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座屈長さ |
は材長そのものとして、 |
となる。
つまり、筋違い材に837sを超える圧縮力が作用すると、真っすぐでいられず湾曲する、というのがこの計算の教えるところである。座屈してしまうのだ。真っすぐのままだから踏んばって抵抗できるのであり、湾曲するというのはいわば膝の関節がカックンとなるようなもので、耐力は急激に減少する。地震の場合は繰返しこのようなことになるから、筋違いの踏んばりが効かなくなれば他の部材に予期せぬ力が加わり危ないことになってくる。筋違い自体も上下端の接合がはずれるかもしれないし、はずれる前にへし折れてしまうかもしれない。
座屈というのは細長い材に特有の現象だから、断面を太くするか、長さを短くするのが手である。断面を太くするのはうちでもやった。この事実を知ったのが阪神大震災の前の年であったから、震災後の新築工事では2年間ほど9p×9pの角材を使っていた。
この太さになると市販の接合金物は使えない。金物そのものを社内で設計し、街の鍛冶屋に作らせた。9p角の木材を厚み5oの大きな鋼板プレートで固定された耐力壁を現場で見るたびに思ったものだ。何とごつい、何と無骨なんだ。違和感を覚えた。ここまでやらなきゃもたない木造っていったい何なのだ。それに、なんでだ?こうもあからさまに座屈することが分るのに、なぜ基準法や公庫は厚み1.5pや3.0pの筋違いを認めているのだ。解せない。ハウスメーカーの技術開発部の知人に尋ねたが、この人も分っていなかったし、建築専門雑誌の読者質問欄の構造の先生に文書で送ったが、ああそういうことなのかと合点のいく回答は得られなかった。筋違いというありふれたもののことが、よく分っていないでみんなが使っているという状況自体が私には不思議だった。
しばらく悩んでいたが、奈良県在中のある構造設計者からなにかの話で電話をもらった時、思いきって質問してみたら、筋違いと間柱との接合部分をきちんと施工しておけば、弾性支承梁として間柱が結構効くんですよ、と教えてくれた。初めて耳にする専門用語に戸惑ったが、間柱が膝折れカックンを防ぐ役目をするらしいことが分った。
私のモヤモヤは少し解消した。こういうことだ。私は間柱を単なる壁下地材と考えていたから、構造を考えるときは頭からはずしている。台所の防煙垂壁を構造梁と考えないのと同じ。一方、基準法や公庫基準をつくった人たちは、木造に間柱はつきもので、筋違いのある壁だって壁下地は必要だから、黙っていても現場の大工は間柱をつけるだろうから、いちいち言わんでいいだろう、ということらしい。
このギャップが私を悩ましたことになるのだが、法文や解説書はあまりにも不親切だといいたい。大事なことなのだから筋違い耐力壁の記述のところには、間柱による拘束についてきちんと触れておくべきではないか。
9p角をやめて、4.5p×10.5pのサイズにもどした。
最近になって、この問題をあらためて考えてみた。
図2-1は座屈の様子であり、図2-2はそのモデル化である。
※ 本文と同じような主旨のことが、雑誌『建築知識』の2005年3月号特集の一部に掲載されていますが、編集者に毒味と辛味を薄められる前の私の担当原文に、「おわりに」の項を付け加え、改題したものです。
はじめに
住宅コストの基本的な考え方といっても、この業界が一本筋の通った考え方をなかなかしようとしないから、いつまでたっても住宅見積りは分り難く、不透明で大雑把でいい加減なものが多いというイメージを払拭できないでいる。なぜ筋を通せないか。大きな要因が2つある。これを改めればすっきりする。
設計価格と仕切価格
上記の言葉に対応して、一般の小売業では上代、下代という言葉を使う。上代とは、小売店の店頭販売価格の目安として下さいという参考価格をいい、下代とは、これで小売店の皆さんが買ってくれれば問屋とメーカーは商売としてやっていけますという価格である。小売店主あるいは仕入担当者は、一般消費者が入れない問屋街へ行き、小売店である証のパスポートを持ちながらあちこち回って、自分の店で売る品物を仕入れる。もちろん下代で買う。問屋やメーカーは小売店が繁盛してくれることが自分たちの繁盛につながることだから、設定する参考上代は下代の2倍か2倍近くになっている。これがこの世界の商習慣なのだ。小売店は自分の店頭で上代価格そのままを売値にしたり、いくらか割引いたり、逆に上乗せしたりして値札をつける。規制はない。衣料品、食料品、日用雑貨品などの場合は、金額も知れているし、同じ街の小売店が同じ問屋から仕入れることが多いから、消費者が注意深く店を回れば同じ品物が置いてあり、価格の違いもチェックできる。店頭価格で2倍違うとさすがに不快だが、一割や二割の違いなら高いのを承知で買うお客もいるわけで、これが売り方のテクニックや店構え、店の歴史やカラーなのだから、小売業には小売業の世界があって成り立っており、消費者も納得しているのである。
これが住宅となると話は全然違う。当然だろう。ものが高額だし、街を回って同じものがないから比較できない。本誌読者が設計あるいは施工しているのは注文住宅であろうから、同じものがないのだ。注文住宅は特定の人のために、特定の場所へ人と材料を集めて特定のものをつくりあげるのだから、小売商品と同じ感覚はなじまないものである。にも拘らず、上代下代に相当する設計価格と仕切価格という小売の商習慣を、つくりものの住宅の見積りに適用したのが分り難さの第一の要因をつくった。
昔々、住宅設備機器とか工業材料などがなく、大工の棟梁が名実共に家づくりの全過程を差配していた時代には二重価格など存在しようがない。戦後、工業化を目指し、住宅の洋風化が進んだ頃から、工場で大量につくられる機器や建材が増え始め、メーカーは小売業の商習慣に習い、設計価格と仕切価格という二重性をあたり前のこととして採用したのである。工務店は多くの機器類、建材類を設計価格(定価と言い換えてもよい)の7〜6掛けで買え、サッシフレームやユニットバスなどは半分以下で買えるため、定価とか設計価格を表示することの目的は本当の客である施主のためでなく、小売店に相当するハウスメーカーや工務店の営業マンたちが、有利にかけ引きするための戦略的価格とするためである。工業製品をすべてメーカーのカタログに表示された価格で見積りしていれば、商談の最終段階で、営業マンが自分が苦労して上司を説き伏せて頑張りましたと、恩着せがましく100万単位の値引ができるのも、戦略的価格と仕切価格の乖離が大きいからである。
ハウスメーカーと工務店の本質的な違い
ハウスメーカーはもの売りである。出資会社や母体会社を見れば分るように、ほとんどが建材メーカーや商社だから、彼らは言うではないか、住宅は商品であると。だから二重価格の存在は当たり前の感覚で、年に何千棟も売り上げるメーカーはこの資材分野で膨大な利益を上げている。
一方、工務店はどうか。工務店も建材店の真似をして半値で買ったものを“定価の8掛けです。我々だから8掛けで買えるのです”と有難せて、3割を残す。いわば不労所得に味をしめた工務店は数多く、私のところもそうだったが、結局は価格競争に巻き込まれ、ハウスメーカーと競合すれば勝てるわけがない。年間に仕入れる機器・建材の数は桁が2つか3つ違う。大量買付のメリットは非常に大きい。工務店は商社ではない。ものつくりなのだ。ハウスメーカーの真似をすることはない。もうそろそろ、ものつくりの技術と誠実さと良心を施主に買ってもらえればいいと決意してみないか?
工務店は仕切価格をオープンにすることが、ハウスメーカーとの違いを宣言し、ものつくりであることをアピールすることにつながる。工務店の逆襲だ。
諸 経 費
住宅見積もりを分かり難くしているもう1つの要因がこれである。
「稼ぎ」というと生々しいから、諸々に掛かる経費と上品な表現をしているのだが、日常語にないため“ショケイヒって何ですか?”とお客に聞かれることが時々ある。工務店は原価構成についてもきちんと説明すべきだ。下の図表を見ていただこう。

通常、工務店では、D限界利益やE直接現場経費などという言葉は使わないだろう。Dを荒利益や粗利益といい、EとGを一緒にして諸経費といっているはずだ。ここで、E直接現場経費とは何か? 特定の場所へ職人と材料を集めれば家は建つのか。否。道具を使い、体を動かして実際に家をつくるのは各々の専門職人たちだが、彼らは仕事の全体を把んでいない。どういう家をいつまでにどの程度のレベルでつくりあげるかをはっきり把んでいて、各職方や材料・機器類を発注、納品、乗り込みのタイミング、納まり詳細、予見できる問題点の確認、前後工程の絡み、作業の安全性、指示した仕事のチェックと手直しの判断・・・こういう仕事が山ほどあるが、これを職人ではなく、一切合切を指揮監督して束ねるのが現場担当者である。彼がいなかったら現場はにっちもさっちもいかない。工程管理、安全管理、品質管理、原価管理、この4つの管理が彼の仕事だ。十分にプロフェッショナルなのだ。その彼にまつわる経費 ─ 彼の給与、賞与、社会保険料の会社負担分、通勤交通費、工事車両の燃料費、車検代、通信連絡費、事務用品費、各種保障、保険 ─ これらを直接現場経費という。これは誰が何と言おうと絶対に工事原価である。儲けの一部などと受け取ってもらいたくない。だからF工事費計に含まれるのである。
ゼネコンが請け負う何億、何十億という規模の工事だと現場事務所を仮設なり、賃貸なりで必ず設ける。そこには打合わせテーブルや事務机、製図台、本棚の他に、流し台、ガス台、冷蔵庫、湯沸かし器、エアコン、トイレ、仮眠室程度の施設はあるため、現場担当者は自宅から現場事務所へ通勤する。夜遅くなれば、あるいは早朝の生コン打ちで日の出前から準備に追われる時は現場事務所に泊まる。だから直接現場経費というのは目に見える形で把めるから分りやすい。しかし、普通の木造住宅の現場で現場事務所などつくれるスペースはないしその必要もない。そして現場担当者はいくつか仕事を掛け持ちしているため、現場毎の直接現場経費を明確に分けることはできない。しかし一年を通せば、完成工事高(売り上げ高)のうち直接現場経費が何%を占めたかは分かるため、次年度の各現場の直接現場経費はパーセンテージで計上すればよい。“なぁ〜んだ、ただ便宜的に分けるだけじゃないか”と思う人もいるだろう。しかし、直接現場経費を工事コストとして捉える原価意識(センス)が大事なのだ。みんなで飲食した福利厚生費や社長の交際費をごちゃ混ぜにして、住宅のコスト管理ができるわけがなかろう。
さて、Gを諸経費といって実質は荒利益である。さらに、これから一般管理費や間接経費と呼ばれるものを差し引いた残りを純利益といい、法人所得税の対象となるもので、はじめて儲けと言えるものである。一般管理費とは、現場を後方支援する総務や経理の社員、部課長級の管理職や社長をはじめとする役員などの人件費、通勤交通費、通信連絡費、そして会社施設を維持していくための事務所費、用水光熱費、修繕費、クリーニング代、固定資産税、家賃などで、間接経費は設計や積算などの専門スタッフを社内で揃えて業務をさせれば、彼らにかかる人件費等である。儲かりまっか?は、税金を納めるほど稼げてますか?という意味と解すべきだ。サラリーマンが所得税を納めるのと同じように、法人も法人所得税を納めて一人前なのだ。
ものつくりのプライドを持つ
さぁ、まとめると次のようだ。
(1)ものつくりの我々は、商人の習慣を持ち込まず、仕切価格をオープンにしようではないか。
(2)現場担当者の経費は、工事原価なのだという意識を強く持とう。
(3)我々の仕事は、工程管理、安全管理、品質管理、原価管理の4つで十分にプロフェッショナルだ。自信を持って労働の対価と報酬を明示しよう。
見積り合わせの意味
設計事務所が、あるいは施主が設計事務所に依頼して、工務店数社から見積りをとり、比較検討することを合見積りとか見積り合わせという。公共建築物の入札制度の民間版みたいで、いかにもフェアで厳正な手続きのように受けとられがちだが、果たしてそうか。本当のところは住宅見積りが非常に分りづらいから、他社はどうなっているんだと知りたくなってこうなったのではないかと私には思える。3社ぐらいの見積りを細かく比較していけば、適当(適正ではない)な答えが得られるというのが狙いだろう。見積りが分りづらいのは工務店が改めるべきことで、既に見たように原価オープン、報酬オープンにすれば比較は非常にやりやすくなる。
一方、設計事務所の図面は、完成度の著しく低い図面を平気で見積らせる事務所が非常に多い。図面の枚数や見た目の問題ではない。まだつまっていないところばかりだが、とりあえず“今の時点でこうです”の内容だ。ところが、とりあえずにしては実にもっともらしく描かれているから、読みこむだけでも時間がかかり、ようやく問題点、質問点のリストを作ってぶつけると、返ってくる答えのレベルから、“なぁ〜んだ、とりあえずの見積りか”ということが分る。
もし、クライアントのためにフェアで厳正な手続きだというのなら、工務店の受けとめ方で解釈が異なり、工事費が大きく変わるような未熟な図面でやってもらいたくない。
一方、非常に完成度の高い図面をまとめる設計事務所も少数派だがあるわけで、そういう事務所が見積り合わせをするのは構わないが、見積り条件に原価オープン、報酬オープンを前提にした見積りを出させたらどうか?
いいことだと思う。この業界の体質を変えるには、優秀な設計事務所が工務店の尻をひっぱたくのは非常に有効だ。
見積り力と設計力
この2つは本来表裏一体の能力である。つくり方、納め方が分っていなくて材料の数量や加工する職人の手間代を算出できるわけがない。同じようにつくり方、納め方が分っていなければ製図はできないはずだ。設計力とはデザイン力も含まれるが、クライアントの予算に合わせた内容を図面上に表現することも含まれるため、設計事務所は見積りを工務店に押しつけてばかりいないで、自らも数量を拾ってみたらどうだろう。力がつきますよ。
さて、そうは言いながらも大量生産品でないこと、特定の場所で特定のものをつくりあげていくことだから、おびただしい数の設計アイテムを決定していかなければならない。そのため、誤差はつきもので一発でクライアントの予算に合う線が出るものではない。
概算見積りの意味
そこで概算見積りという手順を踏むのだが、タイミングとしては基本設計の段階で、建物の配置、各階平面図、断面図、外観図と仮の仕上げ表、及び仕様書があればよい。私は社員に本見積り時の±5%の違いしか出ない概算見積りを要求している。3000万円の家なら150万円の違いだ。これなら、面積を少なくするなどの大きな修正なしに調整できる範囲だからである。そして、クライアントは自分の懐にはまることが分って安心して次のステップに進める。5%の誤差にするには、結局、主要な部位、主要な工種については数量を拾わないと無理で、社員たちはできるだけ無駄なく落ちがなく、また後の変更でも修正しやすい拾いフォームを考案して使っている。正味3日あれば、工事種別の内訳毎に金額が出せる。何故こんなに短期間に内訳付の概算見積りができるかというと、家づくりの基本スペックを決めているからだ。
基本スペックの明示
概算見積りをクライアントの懐具合いをさぐるためだと考える人は多いだろう。確かにそうなのだが、懐具合いが判ってから、工法や仕様のカードを切るのは誠実なものつくりのやることではない。住宅は商品ではない。設計事務所も工務店も、自分の信念として家づくりの基本スペックは決めておくべきだ。構造の安全性、耐久性、温熱環境の性能、シックハウス対策など、“うちのレベルはこうで、それを実現するための工法と仕様はこれこれです”というものをクライアントに初めから明示することだ。それによりコストも確定部分が多くなり、見積りが短期間でできるのである。予算を聞いてから、松、竹、梅のいずれかのカードを切るというやり方はハウスメーカーみたいで、感心しない。
おわりに
“住宅コスト”と聞くだけで、コストダウンのことかと短絡して考えがちなのは、工務店の悲しき習性である。
バブル期から比べると、資材、建材、住宅設備機器などは随分安くなった。工務店の法人所得も下げた。下げざるを得なかった。社員の人件費には手をつけなかったが、待遇に見合う仕事をしようとしない人間には辞めてもらった。少ない人数でやっているから、一人当たりの負担は前より増えている。結果として、人件費も下がっていることになるのだろう。しかし、デフレスパイラルもそろそろ底打ちという観測は口にしてもよいだろう。
多くの分野で同じことが言えると思うが、住宅業界も2極分化していく。人口の減少は新築の着工件数の減少だから、2極分化の様相をより鮮明に浮かび上らせるだろう。
2極とは高い安いではない。住宅を商品として捉えるか、あるいは人生の意義を見出し子供たちの教育のためにつくるものとして住宅を捉えるか、ということである。良い悪いではなく、人の価値観の問題であるから、2つの在り方があってよいのである。一口に工務店といったって、考え方はしっかりハウスメーカーなのもいる。しかし、それではものつくりとしての誇りが持てないと考えるなら、目先のコスト競争に汲々とすることから脱却して、“うちはこれだけの中味の仕事をしますから、これだけ下さい”とクライアントに自信をもって言えるものを目指すべきなのである。
たまたま、同業他社の不思議な見積りが手に入ったので紹介しよう。

築26年の中古住宅の改修工事である。工事費は6,861,849円で、会社に残るお金が諸経費200,000円である。これに消費税を加え、不思議なことに304,941円も値引きをして、7,110,000円とし、“何卒ご用命下さい”といっているのである。常識的に考えて、会社の存続経費を10万円持ち出しても請け負う経営者はいない。つまり工事費の中にしっかりと必要な経費分があちこちの項目に分散して内蔵されていると考えるのが普通だ。“※別紙内訳参照して下さい。”といわれても、どうせ経費上乗せ金額だ。上乗せのやり方に業界統一のルールも慣習もないので、見積った人間によって3者3様の金額表現になるので、非常に解りづらいものになる。われわれでも見る気がおきない。
新築でもこの手の見積りをしている会社は非常に多い。
2005年2月